第2幕/02

数十分前。

「あの……崎さんはお父さんの事、どう思います?」

眼鏡越しの大きな目が不思議そうな目をしてこちらを向く。
ちょっと唐突過ぎたかな、と後悔しながら
由乃は視線を逸らした。

剣呑な雰囲気を振りまく男二人を置いて
崎と二人で服選びに出たのだが、
お洒落な服を選んでみようと言われても
どれがいいのかちっとも分からない。
自分の好みにあった地味目なものを選んでは
崎に「もっと派手なものを」と言われる繰り返しだ。

「あ、その、特に意味はないんです。
 ほら、お父さん服の趣味おかしいし、
 崎さんはそういう父親をどう思うのかなーなんて……」
「素敵なお父さんだよね!」

耳を打つ明るい声に「え」と目を丸くし
横に居る白衣の女性を見上げる。

「紋ピーはシノちゃん想いのいいお父さんだよ!
 だからね、紋ピーの子供のシノちゃんも素敵だよ!」

なんの抵抗もなく恥じらいもなく、
かといって演技くさいわけでもない。
それで彼女が慰めでもなんでもなく純粋に
そう思っているという事が分かってしまった。

高い場所にある太陽を直視してしまったような感じがして
由乃は思わず目を逸らした。

「そう、ですかね……」
「そうだよ?
 ――だって紋ピー、会えば奥さんとシノちゃんの
 自慢ばっかりするんだもん」
「自慢……?」

聞き返す。
今、何か変な事を聞いた気がする。
崎はズレた眼鏡の位置をクイッと直し、

「うんっ。この前もね、中学の卒業式の写真とか、
 新しい高校の制服を着たシノちゃんの写真を持って来たよ。
 あ、そういえばシノちゃんの学校のブレザー可愛いよね。
 何処のデザイナーがデザインしたのかなー」
「ちょ、ちょっと待って下さい!
 なんでお父さんが中学のあたしの写真を持ってるんですか!」

途中で話題が逸れて慌てて軌道を戻す。
高校の写真ならまだ分かる。由乃は入学式前に
紋胤の所に引っ越してきたのだから。
だがそれ以前の写真は?

だが由乃の問いかけに崎が不思議そうな顔をする。

「奥さんから定期的に写真が送られて来るって
 言ってたよ?
 あ、シノちゃんのお母さん、蜜さんだっけ? 美人だよね!
 美男美女夫婦だね! だからシノちゃんはこんなに
 可愛いのかな~」

また話題が逸れるが由乃の頭の中はそんな事を
気にしないほどに回転していた。

由乃の母――染井蜜には写真を撮るのが趣味だ。
由乃は被写体として毎日のように、嫌がっていても
週刊誌のカメラマン並みのしつこさで写真を撮られた。
単なる自己満足の趣味だと思っていたが――

……まさかその写真がお父さんに……!?

ここ最近は由乃が嫌がるので
由乃が寝ている時やボーっとしている時の写真が
多かったはずだ。しかも結構間抜けな顔。
今度紋胤がいない時に部屋中を引っくり返してみよう。
そう密かに心に決めていると崎から声がかかる。

「紋ピーは離れて暮らしているから
 生でシノちゃんの成長を見られないんだもんね。
 せめて写真くらいって蜜さんが思ってやったんじゃない?
 つまり家族純愛だね! ファミリー・ピュア・ラブ!」

テンションが上がったのか勢いで由乃を抱きしめてくる。
思い切り崎の胸に由乃の顔に埋まり呼吸がしにくくなる。
因みに崎はかなり肉付きのいいナイスバディなので
由乃は普段は気にしない自分の発育の悪さを
意識せざるをえない。
由乃はよく言えばスレンダー、悪く言えばペッタンコである。

今知った割と衝撃的な両親の交流の事実と自分の体型を思い、
由乃はなんとも言えない微妙な気持ちになった。

「で」
「はい?」

由乃を開放した崎が笑顔で両手を差し出す。
その手にはいつの間にかいくつかの服が釣り下がっていた。

「これなんか似合うと思うよ!」





数分後。

……へ、変なのかな。似合ってないのかな。

紋胤と璃樹のポカンと口を開けた顔を見て
内心焦っていた。頬に熱が集まるのが分かる。
由乃は今、恐らく人生で一番派手な格好をしている。
それは由乃にとってであり周りから見れば極普通ではあったが。

ノースリーブのベストの下に、胸元が開いた袖折りシャツ。
更にその下にあかる過ぎない黄色のカッターシャツ。
薄い生地をジャキジャキと何枚も重ねたような
チェック柄スカートの下に黒のレギンス。
折角だからと余った予算で買った踝より高いスニーカー。

可愛過ぎず、ボーイッシュ過ぎない加減が
由乃に丁度良く合わさっていた。

何故か緊張して固まり、崎の白衣の後ろに隠れる。
逃げ出したい気持ちに駆られながら二人の返事を待って――

「「おお」」

とピッタリ重なった感嘆交じりの声が聞こえた。

「すげーじゃん。やっぱ崎に任しといて正解だったな」
「でしょでしょ? 可愛いでしょー?」
「染井の普段の格好があれだから結構見違えたように思えるな」

おや、と顔を上げた。
感心したような視線と目が合った。

「いつまでも崎の後ろに隠れて何やってんだ?
 変じゃないから出て来いって」
「飾ってみれば随分と光ったなー」
「カッコカワイイ系の頂点だね!」

別の恥ずかしさが込み上げてきた。

変な組み合わせで行われた由乃の服選び。
気疲れしたが、案外悪いものでもなかったと思った。

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