第2話/片 ~SECRET MEMORY 05

懐かしい夢を見た。

私達は一緒に出掛けていた。
そっくりの双子の姉妹と、少年。
私と、レノア。そしてフォール。
ただただ青い草が何処までも続いているような草原。
お日様の光はまだそんなに強くはなくて、
暖かさに包まれるような、心地良い春の季節。

そう。一年前に三人でピクニックに行った時だ。
恋人同士なんだから二人で行ってくればいいのに、
レノアもフォールも私に一緒に行こうって誘ってくれた。
二人の邪魔をしてしまう罪悪感と、それ以上の
二人に私が大切な人だと思ってもらえているという嬉しさ。
無邪気な二人を見ているのがとても楽しかった。

そっくりな双子の姉妹とフォールが、夢の中で楽しそうに
笑いながらおしゃべりをしている。

そっくりな……、
……あれ?

どっちが私かしら?
どっちがレノアかしら?

客観的に見てみると、本当に私達はそっくりだ。
髪の長さも、顔の輪郭も、指の細さも何もかも。
何処が違うんだろう?
私とレノアの何が違うんだろう?
何が違うというんだろう?
こんなにも同じなのに。
こんなにも違わないのに。
フォールはどうして私達の見分けが付くのかしら?

……そうよ。
私達はそっくりの双子。
まるでこの世界にいるもう一人の自分。
鏡合わせのような、ではなくすぐそこにいるもう一人の私。

何が違うの?
何も違わないわ。

同じなのに、フォールはあの子を選んだ。

あの子?
あの子って誰?
私の片割れ。それは誰だったかしら?
私じゃない、もう一人の私。
じゃあ、私は誰?
ルミアだったような気がする。
いや、私はレノアだった。
でもルミアだったような……レノアだったような。
どっち?
離れてみて、初めて気付いた。
私達はなんて――区別の付けようがないのだろう。
これでは、これでは――どっちでもよくなる。

×××は×××の双子の姉妹。
×××はフォールの恋人。
フォールは×××と×××の区別が付く。
×××と×××は同じような双子。
どっちでもいいような双子。
性格も、姿も全く一緒。
それなのに、
それなのにどうして――

フォールは×××を選んだの?

フォールが好きなのは×××。
じゃあ、フォールを好きだったのは×××××××××――

   + + +

メモ用紙と睨み合いをしながらクラスペディアの三人は
住宅街を歩いていた。
メモ用紙に書いてあるのはルミアの住所である。
本来は鍵が出来た時にそれを伝えるカードを届ける為に
聞き出した住所だ。
彼女は火事の一件以来、実家から少し離れたアパートメントに
一人暮らしをしているらしい。
フォールは毎日彼女の元へ通っているらしい。
しかし今、三人にとって重要なのはルミアの方だ。
アイオニアが言った「ルミア自身とルミアの名前は違うかも」
という言葉。
その言葉を聞いて、マッドはある推測を述べた。

記憶には二つある。
脳が記録しているもの。
もう一つは、身体に染み込んだ記憶だ。
身体の方のものは、反射的、または勘のようなものだ。
例えば、マッドの鍵を作る儀式。
あれは勿論脳で理解した手順に添ったものだが
最終的には勘、“身体に染み込んだ技術”で成り立っている。

そしてルミア――もしくはレノアかもしれないあの女性は、
その二つの記憶が食い違っているのではないか、というのが
マッドの言い出した推測だった。

彼女が遭ったというあの火事で、彼女の頭の中に
どういった事が起こったのかは分からないが、
とにかく確認をしにいこうと言う話になった。

「ところで、その確認というのはどうやってするのですか?」

いつものスーツの上に外套を着込んだブランが歩みを止めずに
訊ねるとマッドは視線を逸らして気まずそうに言った。

「……んー? それは、ほら、あれだよ」
「あれ、とは?」
「あれはあれだ」
「私達は熟年の夫婦ほど分かり合ってはいないので、
 あれと言われても私にはさっぱりですね」
「きっと俺には出来る」
「今素直に謝れば許してあげますよ」
「ごめんなさい」

頭を下げたマッドの後頭部をブランは軽く叩いた。



「……あれ。か、鍵屋さん?」

そろそろルミアの家が見える頃だろう、という時
背後から覚えのある声が掛けられた。
三人が同時にふり返ると、そこには気弱そうな男が立っていた。
三人同時に振り返られた事に驚いたように肩を大袈裟に跳ねさせ、
それを誤魔化すように「えへへ」と笑う。

「フォール様ではないですか」
「あ、はい。えっと、先ほどはどうも、すみませんでした」
「貴方が謝るような事をされてはいませんよ」

そう言われてますます困ったように笑うフォール。
アイオニアは彼が腕に抱えていた薔薇の花に目をやった。

「ばら、るみあにあげる?」
「うん。彼女からは薔薇なんて照れくさいから
 止めろって言われているんですけど、
 彼女とっても薔薇が似合うから、ついつい、ね」
「確かにちょっとお堅い感じのルミアさんに薔薇は似合う。
 髪の毛が金髪だから橙のガーベラもきっと似合うな」

つい口を挟んでしまったマッドをブランが目線で黙らせる。
フォールは照れくさそうに笑い、
それから相変わらず目線を少し下げた姿勢で、

「鍵屋さんは、もしかしてルミアの家に?」
「はい。少し確かめたい事がありまして。
 フォール様もルミア様の邸宅に御用があるのでしたら、
 ご一緒にいかがでしょう?」

フォールが一瞬迷ったような顔を浮かべたが、
今すぐに薔薇を持った彼女を見たいのだろう、
顔を上げ珍しく力強く頷こうとした瞬間――

――けたたましい警鐘が響いた。

「警鐘……?」

マッドが怪訝そうに警鐘の鳴った方向を向くと
少し離れた所で黒い煙が上がっているのが見えた。
ハッとしたようにブランの持っていたメモを引ったくり
それを穴が開けとばかりに見つめた。

「ルミアさんの家の方角だ!」

マッドがそう叫ぶのと同時、彼の横を真っ青な顔をした
フォールが物凄い勢いで走り抜けていった。

「レノア!」

警鐘は誰かの危機を伝えるべく、遠くへ遠くへ空気を伝う。


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