壱/黄昏色の再会 〇二

「その友達とやらはどんな奴なんだい?」

男性が訊いてきた。

「なんというか……。浮世離れしている、というのかな」
「へえ?」
「どこがどういう風に、って訊かれたら
 上手く答えられないんですけど、
 なんか普通の子とは違うって感じが……」

的確な言葉が見付からず、
うーん、と考え込んでしまった色葉の肩を男性がぽんと叩いた。

「あー、なんか解るぞ。そーいうの、居るよな。
 なんか大人びていて、何考えているのか解らない奴」
「あ、そう! それです!」

思わず大声を上げた色葉が頬を染めると、
男性はまた先程のような笑い声を上げた。

色葉にとって、瑛(あきら)はそうだった。
周りの子とは違うことを考えている感じのする。
不思議な感じで、大衆に埋もれない人。
色葉が感じていた通り、
瑛は、色葉には理解できないよく解らないことを言っていた。
けれど、それは決して、
色葉をからかっていたわけじゃなかったと思う。

「おう、着いたぞ」

その声にハッとなって、顔をあげた。
ドアが開けられ、そこから、ぴょん、と降りる。

トラックのすぐ元でゆるゆると流れる、
助走をつけて飛べば何とか飛び越えられそうな小さな川。
色葉の降りたすぐ左には、
古いがしっかりした造りの横幅が広い木の橋。

向こうには周りより一回り大きな山が
行く手を遮るように、そこに居座っていた。

「百鬼っつーのは、この川から
 向こうの山までの一帯の、昔の名だ。
 今じゃここら辺全部が塗浦(とうら)郡出(いずる)町だが、
 昔、ここだけは百鬼という村だったんだ」
「そうだったんだ……」

それなら地図に「百鬼」の名が無いのも頷ける。

……が。
瑛からの封筒には確かに「塗浦郡百鬼村」と記してあった。
「塗浦郡出町」とは書いていなかった。
まさか自分の住んでいる場所が
まだ百鬼のままだと思っているわけではないだろう。
だとしたら、何故。

瑛は、何を、考えているのだろう。

「……お嬢さん」

途端に耳元で、男の声がして色葉は吃驚した。
視線を上げると、真剣な顔があった。

「百鬼が、まだこの辺りで伝わるわけはな、
 色々と因縁があるからなんだよ。
 ここら辺じゃ、百鬼の言い伝えは有名だからな」

――曰く、二十年前まで、神隠しがあったそうだ。
――曰く、今でも時折、人魂のような摩訶不思議な
現象が目撃されるそうだ。

――曰く、この村には現代でも鬼が潜んでいるそうだ。

「……あの……何てコメントすれば良いか……」
「まあ、俺もくだらない迷信だとは思うがね。
 それでも、偶に思うんだ。
 百鬼じゃ、それくらい在ってもおかしくないってな」

男性から目を逸らし、川の向こうを見る。
橙色に染まった、穏やかな田舎の光景が、
不意に、とてつもなく不気味なもの感じた。

さっきまで心地良いと思っていた静けさが、怖い。
全く人の気配がしないのが、怖い。

こんなに静かなのに、
雨の降るような蝉の鳴き声が、なんだか怖い。

ミーンミンミンミンミンミィィィ……。
みーんみんみんみんみんみぃぃぃ……。

耳を澄ますと、
実は一つ一つが少しだけ違う。

なんとなく、似ている。
あの、夏祭りの――――


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