壱/黄昏色の再会 〇五

蕩けそうな橙色の太陽。
山が夕日によって照れているかのように染まる。
さらさらと遠くで流れる小川の音。
さわさわと夏風に揺れ、擦れ合う木の葉の音。
祖父母が都会の方に住んでいる色葉にとっては、
このような自然溢れる田舎町に来るのは初めての事だった。

だけど、とてもノスタルジックな風景だ。

その既視感が、くすぐったくて、
どこか心地良くて、
どうしようもなく気味が悪い。

からん、ころん。ざわざわ。からん、ころん。ざわざわ。

ざわざわころんざわざからんころざわわざわざわ。
不気味に響く。
葉が踊る音と瑛の下駄の音が、交差する音。

なんだか怖くなって口を開いた。

「ねえ、瑛は大学とか行ってるの?」
「ん? いや。
 僕はあれから、ずっと此処にいる」
「そう、なんだ」

瑛が消えたのは三年前。
色葉が中学二年生で、瑛が高校一年生の時。

瑛は、何も話してはくれなかった。

一緒に住んでいた頃から、自分の家の事に
ついては一切話さなかった。
いきなり家に帰ってしまった理由も、
住所さえ教えてくれなかった理由も、

……あたしは瑛の事、全然知らない。

でも、それを言うのはどうしても躊躇してしまう。
もし、瑛が色葉を嫌っているなら
此処へ呼ぶ事は有り得ない。
けど、
訊いたら、訊いてしまったら……
足元に落とし穴が開きそうで。

「イロハ? こっちだよ」

声に引き戻される。
気が付けば、かなり緑の深いところまで来ていた。
瑛の赤毛の向こうに、家屋が見えた。
村が近いのだろう。

くすり、と笑いながら瑛が問う。

「何か居たのかい?」
「ううんっ、別に何も――」

何か、居た。

右側。木々の密集した向こう側。
小さな、それは人影だった。

「女の子……?」

着物を着た幼子が、こちらを見ている。
薄暗くてよく見えないが、おかっぱ頭のようだ。

「おや、外に出るなんて珍しいね」

感心したように瑛が声を漏らす。
瑛の声が聞こえたのか、幼女の影は
びくりと体を跳ねさせて慌てたように駆け出す。

そのおかっぱの頭が、ちらりと光った。
一瞬、その子の髪は赤毛かと思ったが、
すぐにそれは夕日の色だと解る。

少女は白髪だった。

「え? あ、瑛っ、あの子……白髪?」
「ああ、うん。彼女は特殊な生い立ちでね。
 あの髪が原因じゃないけど、外にあまり出たがらないんだ」
「特殊な、生い立ち……?」

うん、と瑛は答えて幼女が去って行った方向を見詰める。


「鬼に、憑かれているのさ」


「…………はあ?」
「嘘だけど」
「……本当に?」
「ああ。嘘だよ
 誰も知らないけどね」

誰にも内緒だよ、と瑛は唇の前に指を立てて笑った。

「瑛。それって、」
「あ、暗くなってきた。
 ここら辺、夜は不気味だからね。早く行こうか」

瑛が色葉の手を引いて早歩きを始めた。
突然の行動に色葉は動揺して言葉を失った。

……手、握ってるんだけどっ!

反論も出来ずに、引っ張られるままに歩いていると、
やがて視界が開けた。


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