壱/黄昏色の再会 〇六

それは村と言うより、集落に近かった。

どの程度で「村」と呼ぶのかは色葉には解らないが、
ざっと見る限り家は四十もないだろう。

奇妙な形の土地だった。
スプーンで抉ったような、
ぽっかりと空いた穴のような低い土地を
ぐるりと緩やかな斜面が囲っている。
向こう側の、百鬼の端の方には大きな山が座っていた。
恐らくはひまわりの花畑だと思われる黄色の密集が
山の下に広がっている。

斜面の上に立っている色葉の位置からは
百鬼の全貌が見渡せた。

「此処が、なぎり……?」
「そうだよ。……吃驚した?」
「うん、まあ……」
「イロハは都会っ子だからなぁ」

確かに、
瑛の故郷がここまで田舎だとは思わなかった。

……あんまり田舎、田舎って言ったら失礼かな。

とにかく、慣れるのが大変そうだ。

「あれが僕の家だよ」

さ、と微かな衣擦れ音を立て瑛が腕を上げる。
指差した先には、他の家より少しだけ大きな瓦屋根の家。

「へえ、やっぱり少し大きいんだ?」
「まあ一応、長だったからね。
 でも今は殆どそんなの関係なく
皆で協力して暮らしているんだ」

色葉の中にテレビでよく見る、
田舎の温かみ溢れるおばちゃんおじちゃんの
おっとりした笑顔が浮かぶ。
そんな感じなのかな、と思うと気も楽になった。

「よしっ、走ってこう」
「え? ――きゃっ!」

繋いだままの手を強く引っ張られ、
色葉の足が縺れそうになる。

「ちょ、瑛ぁ!?」
「転ばないように頑張って」

前のめりになりながら、
百鬼へと続く緩やかな斜面を瑛と一緒に走り抜ける。
瑛が下駄なのに、随分と器用に走っている。

「わ、わ、わああぁっ!
 瑛! 瑛っ! スト――ップ!」
「あははは」

あははは、じゃないって! 転んじゃうってば!

風が全身にぶつかる感覚。
耳元でごうっと鳴る音。
ざざ、ざざざっざ、と不安定そうな色葉の足音。
ざざざ、という音と、かかか、という音が混じる瑛の足音。

突然の、瑛の急停止。

「きゃうっ!?」

つられて色葉も足を止めさせるが、
勢いが治まらず、そのまま前のめりに倒れそうになる。
転ぶ! と覚悟して反射的に強く目を瞑り、

「おっと」

ふわり、と瑛の腕が色葉を支える。
瑛の行動に頭の回転が停止する。
何故か、沈黙。

「イロハ?」

その声に色葉は、端から見れば
自分が瑛に抱かれている格好に見える事に気付いた。

「………………、
 ……わぎゃああああっ!?」

奇声が百鬼に響いた。


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