夢/×××の回想・一

――色は匂へど 散りぬるを
   我が世誰そ 常ならむ
   有為の奥山 今日越えて
   浅き夢見じ 酔ひもせず

お天道様の光が突き刺さるような、夏。

生温い風に乗って、歌が聞こえた。
うるさい蝉に鳴き声に、しかしその歌声は
小さいのに、確かに真っ直ぐに聞こえてきた。

その美しく、どこか憂いを含んだ歌声が
自然に僕の足を動かした。

今思えば、僕はもうそのとき既に
あの歌声に魅せられていたのかもしれない。

人間なんかよりずっと耳の良い僕はすぐに
歌声の居場所を突き止めた。


そして、
出逢ってしまった。


彼女は視界を埋める、
眩しいくらいに黄色い沢山のひまわりの中に居た。

頭の高いところで一つに括った烏の濡れ羽色の髪。
涼しげな色をした上品で高そうな青い着物。
肌は白く、睫毛は長い。
純粋そうな、天の使いのような。
そんな彼女が、ひまわりの中で、歌っている。

「――――ぁ……」

人間を「美しい」と思ったのは初めてだった。

――色は匂へど 散りぬるを
   我が世誰そ…………、

歌が途切れて、
彼女がこちらを向いた。
全てを美しく映すような瞳と目が合った。

「だぁれ?」

何故か死んでしまいそうなくらい恥ずかしくなった。

「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………。
 あ、あのっ……」
「なぁに?」
「……えっと、その――」

だから、きっと僕は頭がおかしくなってしまったんだ。

「歌……止めないで」

彼女は目を見開いて驚いているようだったが、
すぐに笑ってくれた。

「うん。いいよ」

ひまわりの花畑に歌が響く。
彼女は歌ってくれた。
こんな僕の為に。


[第二話へ]