弐/出会い・出逢い・出遭い 〇三

「ちょっとだけ登るよ」

そう言う瑛の前には百鬼の一番端に座っている山。
その山の途中に神社があるらしい。

山の中へ入るには山の麓のひまわり畑を通らなくてはいけない。
麓を埋め尽くさんばかりに広がる黄色の中には、
ただ一筋、山の入り口へ向う茶色い土の道があった。
映画で使えそうな綺麗なひまわり畑を二人で歩く。

「綺麗だね」
「そうだろう」

瑛はひまわりを、まるでその一つ一つ愛おしむように見ている。

「このひまわり達は僕の遠いお祖父さんが
 つくった場所でね。
 僕にとって、この場所は特別なんだ」
「へえ。ロマンチックなお祖父さんだね」
「……そうだね」

その声が、
切なく聴こえたのは気のせいではなかったかもしれない。

「ロマンチストな家系かもね、ウチは」
「ふうん……」

橙色の背中はひまわりの黄色によく合っていて、
なんだかそのまま、一つの絵になってしまいそうだった。



「瑛ー……まーだー……?」

登り始めて五分でリタイアしたがる色葉。
どんどん先を行く瑛は呆れ半分の顔で振り返った。
確かにこの山道は急なほうだが、
それでもこれは早いな、と言いたげに。

「情けないなぁ。
相変わらず、運動してないんだ」
「う……あ、あたしはインドアなのっ」
「今、何部?」
「………………きたくぶ」

わざとらしく瑛がため息をつく。
色葉は反論の一つでもしてやろうと思ったが、
今騒いだりしたら本気でぶっ倒れそうなので止めておいた。
舗装されていない土の道を歩く。

あと少しだから、と言う瑛の言葉を信じて
足に力を入れて踏ん張った。
後ろの光景は波のようにひまわりが風に揺れていた。



“百鬼神社”と言う名の神社についたのは
それからまた五分ほどだった。

「つ、着いた……」ぜーはーぜーはー。
「……体力つけようね、イロハ」

古ぼけて朱色が殆ど剥げているが、
倒れたりする心配が全くなさそうなしっかりした鳥居。
奥には賽銭箱と拝殿、本殿。
右側の林の向こうには倉庫らしき建物。
全体的に小ぢんまりしている。

普通の、いや――かなり古ぼけた神社だった。

「な、なぎりの……神社、なの?」
「……まだ息上がっているのかい。
 ここは百鬼が出来た時に建てたものだから、
まあ、ざっと二百年くらいだね」
「へえ……かなり古いんだね」

長い年月を経てて削られた木製の神社を見て、
歴史を感じると共に、
色葉は夜に訪れたら怖そうだな、と思った。

「ここは百鬼の氏神(うじがみ)を祭っている神社なんだ」
「うじ……なに?」
「氏神。その土地を守ってくれる神様みたいなものだよ
 僕らはここ百鬼の氏神を、アヤハ様と呼んでる」
「……アヤハ?」
「そう――アヤハ。
イロハの名前に似ているね」
「いや『ハ』しか合ってないし」

色葉の突っ込みを瑛はさらりと受け流し、

「昨日、村の入り口で見かけた白頭の子、覚えてる?」
「ん? ああ……うん」

昨日、村へ入る途中
一瞬だけ見た白髪頭の女の子。

――鬼に、憑かれているのさ。

そう、瑛は言っていた。

「ここは、あの子が住んでいる。
 あの人がアヤハ様だからね」

不意に、
ざわ、と風が鳴った。
鳥が飛び立った。


いつの間にか――

白い頭が、目の前に在った。


「っ!」

驚いて、つい後ずさりをする。

「おや、ごきげんよう。アヤハ様」

瑛は突然現れた白い頭の幼子に動じた風もなく、
にこやかに挨拶した。

「ん」

返事なのか、短く言う。

「あ、こ、こんにちは」

色葉も慌てて挨拶する。
何故か自分よりも七つは下に見える子供に頭を下げた。

「イロハ、そんなに硬くならなくてもいいんだよ」

優しい声音に恐々と顔を上げて
白い頭の子供の顔を
初めて、ちゃんと見た。

あ、と思った。

枯れ草色の着物を着た、白髪頭の少女。
小さな顔に不釣合いなくらい大きな目に、長い睫毛。
肌は青白く、だけど唇は鮮やかな赤。
歳不相応な落ち着いた雰囲気と、冷ややかな表情。

でも、
なんか。

「……超可愛い」


[次へ]