弐/出会い・出逢い・出遭い 〇五

色葉がケータイの写真機能で彩葉を撮ろうとし、
彩葉が嫌がって神社のある外へ逃げ出し、
それを色葉が追いかけ、
どたばたした喧騒の中で瑛は縁側で寝ていた。


やがて瑛がむっくりと起き上がり、
眠たそうに目を擦りながら客間で双六をして遊んでいる
色葉と彩葉の、黒と白の頭に呼びかけた。

「イロハ。帰るよー」
「えーっ、まだ双六の途中」
「はいはい今度ね。もう夕方じゃないか」

公園でまだ遊びたいと騒ぐ子供を親が宥めるような光景。
瑛の言った通り西の空はすでに橙色で、
夏のこの時期でこの空だと、既に六時は過ぎている。

「そういえばアヤハの写真、諦めたのかい?」
「違うよー。アヤちゃんが観念してくれたの」

誇るように薄桃色のケータイの画面を瑛へ突きつける。
どこか不満顔で正座した彩葉が待ち受け画面にされていた。

「……凄いね。
アヤハを負かす奴なんて、そう居ないよ」

素直な感想を言った瑛を、キッと睨む彩葉。
瑛は「おっとっとー」とふざけた口調で目を逸らした。

「さて、帰るよ」

寝転んでいた色葉を無理矢理立たせて、
明日も来るよ、と彩葉に言って玄関を出る。

「アヤちゃん、また明日ねー!」

笑顔一杯で手を振る色葉に、彩葉も応えて手を振る。
その顔が、少し笑っているようだった。

登りよりはずっと楽な下りを調子よく降りていく色葉だが、
手を引く瑛の力が強くて転びそうになった。

「瑛、速いよ」
「え? ああ、ごめん」

いつもなら色葉の速度に合わせてくれるので、
瑛の本来の歩き速度に少し驚いた。

「どうしたの。見たい番組でもあるの?」
「……うん。まあね」

応える瑛の顔は若干焦っていて、
その番組が好きなんだなー、と色葉は呑気に考えていた。

山を降りた頃には空は徐々に暗くなってきていた。

「……しまったな」

瑛が憎々しげに呟くのを聞いて、色葉はびくっとした。

「瑛? どうしたの」

水分が乾かず泥が柔らかくなっている場所に足を踏み入れ、
靴が泥の中に沈んでしまった。

「うわ、靴が――」


ズ――と。

泥の中から、手が。
否、手のようなモノが。

色葉を掴んだ。


視界が泥に覆われ、瑛の姿が見えなくなる。
状況を理解していない色葉は呆然とし、
真っ青な顔をした瑛の顔を最後に視界の端に見て、
そのまま泥に飲み込まれた。

「な……?」

なに。
どうなってんの。
なにがどうなってんの?

意味が解らなかったが、
ただ恐怖だけが押し寄せて。

心臓を冷たい手で握られたような感覚に

「――――――――――ッ!!」

色葉は絶叫した。


「イロハ――」

瑛の声が、遠かった。


[夢へ]