弐/出会い・出逢い・出遭い 〇一

温い風が風鈴を撫でるように通り過ぎ、
そして撫でられた風鈴が涼しげな音を立てる。

「暑ぅ~……」

言っても仕方の無いことと理解しつつ、
それでも言わずにはいられずに呟く。

真っ直ぐ地上に突き刺さるような太陽の光を遮る
屋根の下の縁側に居ても、じりじりと焼かれる体。
冷えた汗が、つ、と
背中を伝う感触に心地良さを感じつつ、
色葉は背伸びをした。

「おまたせ」

橙色の和服をさらりと着こなし、
真夏の暑さに全く動じていない顔をした瑛が
お盆の上に冷えたカルピスと白玉善哉を持って現れた。

「僕お手製白玉善哉」
「へー。いただきまーす」
「どうぞ」

色葉はさっそくスプーンで餡子と白玉を器用に掬って食べた。

「冷たーいっ。おいし~!」

小さくはしゃぎながら、
次々に黒と白のコントラストを口へ運ぶ。

瑛はそんな色葉を微笑ましそうに見詰めながら、
善哉を口へ運んだ。



透明なコップが斜めに持ち上げられ、
がらがらと氷が音を立てる。
ビールのコマーシャル如く、一気にカルピスを
飲み干した。

「ふぅ、ごちそーさまっ」
「お粗末様」

瑛の家に来て、二日目の昼下がり。

疲れが出たのか、
色葉は十時頃に起床した。
朝ご飯と呼ぶべきか、昼ご飯と呼ぶべきか
判断のつかない時間にご飯を食べた結果、
一時を少し過ぎた辺りで小腹が空いてしまったのだ。

なので、こうして早めのおやつを頂く羽目になった。

「ごめんねー、起きるの遅くて。
 普段なら八時には起きるんだけどなぁ……」
「疲れが出たんだよ、きっと」
「ん~、そうかも。
 ……あ、いいよ。片付けあたしがやるから」

皿をお盆に戻していた瑛の手を止める。

「じゃあ、お願いしてもいいかい」
「任せんしゃい」

奇妙な返事をして、
皿を乗せたお盆を持って立ち上がろうとした時、
そうだ、と瑛が声を上げた。

「イロハ。今日は百鬼を歩いてみようか?
 僕の故郷を、紹介してあげるよ」
「ほんとっ? 行きたい!」
「じゃあ、これを片付けたら行こうか」
「うんっ。
 お皿、洗ってくるねー」

明るい顔で頷く色葉を見て、
瑛もまた優しく頷いた。



「あ、イロハ。
 これ、着けておいて」

そう言って瑛は色葉の首に優雅に手を回す。

「っ、冷た」

首に当たった、金属らしいものの冷たさに
小さく悲鳴を上げた。

「これでよし、と」

満足げに笑う瑛が色葉の首に着けたものは、
勾玉のような石が付いた、紐だった。

勾玉の形に削られた石は、鈍く光るくすんだ金色で
正直あまり綺麗な石とは言えなかった。
だが、色葉は「瑛がくれた」ということが嬉しいらしく

「ありがとう」

ただ素直に笑った。

「金色だね。何の石?」
「さあ、僕も知らない。
 そこらへんで拾ったものだから」

石を手で弄びながら、瑛は続けた。

「咒(まじない)をかけたんだよ。
 イロハを護ってくれるように。
 イロハが何処に居ても解るように。
 だから、ずっと身に付けていて」
「? ……う、うん」
「さ、行こうか。
 百鬼を案内してあげる」

かっ、と下駄を一度鳴らし、
橙色の背中の瑛が前を歩き出した。
蝉は、相も変わらず喧しい。


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