参/百鬼村 〇二

「…………ヨーカイ」

瑛も志枝も酷く悲しそうな、辛そうな顔をしている。
大真面目に言っている。
……今は夏真っ盛りであって、
四月一日でも十月三一日でもない。
何故かとても緊迫した空気なのでとぼけることができなかった。

「えっと……居ると思えば居るし、
 居ないと思えば居ない……んじゃない?」

断言ができずに微妙な疑問文になった。
カッコよさそうで非常にカッコ悪い回答。

「その通りだよ」

なのに瑛の応えはあまりにもあっさりしていた。
……“その通り”?

「……それって、妖怪は居るってこと?」
「色葉が言ったことはかなり正しいよ。
 “奴ら”は確かに居るけれど、信じていない人に対しては
 その存在は全く意味が無いからね」

間があった。

「解った?」
「解らない」

即答したら瑛は困った顔をした。
……困っていいのはこっちだと思う。

「志枝婆、どうしようか」
「……あたしにも、何と言ったら良いか……」

目を逸らしながら志枝が口をもごもごさせる。
瑛は少し唸った後、色葉を真っ直ぐ見つめて言った。

「とにかく、妖怪は在るんだよ」

今度こそ体の力が抜けた。
もとから非常にだるかったので、体は簡単に崩れた。
その場にへたりこみ、色葉は重い息を吐いた。 そんなフィクション産物のようなもの、簡単に信じられない。
けれど、泥は人を襲ったりしない。
居ないとは思うし、どっちかといえば居ないと信じたいけど

……あたしは実体験したわけだ。

「イロハ。大丈夫?」
「あんまり……」

力が抜けて、そのまま冷たい床に倒れる。
髪の毛がばさりと散らばった。
それを纏めようと腕を動かし、
そこで色葉は自分が長襦袢を着ていることに気付いた。
和服着たのは七五三以来だなー、と
思考が勝手に現実逃避を始める。

「えーと、そうだよね。
いきなり言われても信じられないものだよね」

珍しく目に見えて狼狽している瑛。
……こっちに来てから、見たことない瑛ばかりを見ている。

「……居る、という前提で話すけど。
 つまり私は妖怪に襲われたの?」

自分でも何言っているんだと思う。

「そうだよ」

でも瑛にそう言われると
納得してしまう自分が居る。

「なんで?」

あまり頭で考えないで言葉を紡ぐ。

「それは……、
 色葉が外の人間だから、珍しかったんじゃないかな」

そんな理由でそんなものに襲われたんじゃ
たまったものではじゃない。

「瑛は、こうなるって……」
「ごめんね」

色葉が言い切る前に瑛は言う。
解っていたんだ。

「イロハ。帰りたいなら、止めないよ。
 明日の朝にでも車を用意させて駅まで送ってあげる」
「……それは」

答える先に、意識が急に落下を始めた。
もとから限界に達していた気力がとうとう切れたのだ。
最後の糸が切れる前、

「瑛。
 どうして、あたしを呼んだの……?」

落ちる寸前だったから、
確かにそう言ったとは言えないけれど。

「三年前の答えを得る為だよ」

瑛はそう言ったと思う。


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