【其ノ壱】周、捜索開始 〇二

梅雨明けした京は、じめじめしていた空気が消え、
本日は太陽が高笑いをしているような陽気だ。

「もう夏なのねー……」

ご無沙汰の元気な太陽を見上げて気持ち良さそうに伸びをする。
気分の切り替えが早いと好評なのが東雲周だ。
だからといって目的を忘れることは決してない。

「今日こそ佐巻にお仕置きしてやるんだからっ」

陰陽寮を出て自分に言い聞かせるように一言。
但し意気揚々とした周の後ろにはどんより顔の三人が居た。

「なんで俺達まで……」と杏矢。
「本当だよ……」と圭雪。
「暑い……、死ぬ」と修芳。

露骨にやる気のない三人に向き直り周は怒ったような顔をした。
先ほど、起き出した式神たちで
掴まえられたのがこの三人なのだ。
他の五人は周に見付かる前に姿を消してしまった。
今、この三人は主である周の“命令”によって
姿を消すことが出来ないでいる。

「情けないわねー、妖怪なんだから暑さなんかに負けないで
 しゃきっとしなさいよ、しゃきっと!」
「あのさ、周。俺と杏矢はいいけど修芳はまずいんじゃないの。
 ほら、彼は雨童子だから今日みたいに
日輪が照っている日は弱いんだ」

そう言われて見れば修芳は白い顔を青くして
「暑い暑い」とぼやいている。
雨童子である修芳は梅雨の間は元気があったが
梅雨が明けてからは何だか魂が抜けているようにしぼんでいる。

「そうだな。特に今は梅雨明けだ。
 溜めておいた力を取られやすいんだぜ」
「大丈夫よ」
「即答!?」

杏矢がわざとらしくずっこけた。
亜麻色の髪の好青年の姿をとっている杏矢は感情が表に出やすい
直情径行な妖怪だ。九人の式神達で一番人間臭いのも彼である。

「従者の体調を整えさせるのも立派な主の務めじゃない?」

呆れたように言う圭雪。
元服したてのような少年の姿をとる圭雪は
たんぽぽのような前髪で色違いの両目を隠し、
昔お世話になったという師匠の扇をいつも大切そうに持っている。

「あまね。……僕、暑い。力が取られる。帰りたい……」

力なく呟く修芳は、長い髪の人形のような少年の姿をとる。
その長い髪は一見黒髪だが角度によって深い青色に見える。
常に無表情、無感動、無口を貫いているが、
今はよほど嫌なのか不満を訴えている。

「そんなぁ。なんとか頑張ってよ、修芳。
 ね? お願い」

主人である周に“お願い”されて何も言えないのか、
修芳は渋々といった感じで頷いた。
杏矢と圭雪はそれを呆れたように見ていた。

「……で、どうやって佐巻を捜すんだ?」
「どうせ、そこら辺で女の子を誘っているに違いないわ!
 女の子が居そうなお店や場所に行くのよ。
 佐巻を見付けたら私がお札を貼ってやるわ」
「それなら俺らは要らなくない?」
「え? だって」

圭雪の意見に周は小首を傾げて言った。

「男の子が女の子を手伝うのは当然でしょ?」
「「「…………」」」



川辺の木の陰で四人は作戦会議……というもののほどでもないが、
とにかく佐巻捜索の相談をしていた。

「佐巻は今日、紫の着物を着ていたという目撃があるの。
 ……そして箪笥を確認したら私の紫の着物がなかったわ」
「……あいつ着物を持たない主義だからな」

佐巻は見目麗しい、男女問わず誰でも振り返らせるような
美貌をしている。
そんな青年が女物の着物を着て歩いていたら否応でも目立つ。
だが、彼は普段は服を着るのを嫌い、晒し木綿だけを体に
巻きつけているので非常に目の遣り所に困る格好をしている。
外出するときは必ずと言っていいほど周の箪笥から着物を
頂戴するのだ。

「ていうかさ、周が呼べば来るんじゃないのか?
 あいつだって周の式神なんだし」
「佐巻が素直に来てくれると思う?」
「……それもそうか」

因みに、修芳はぐったりして話に参加しようともしない。

「夕方になれば誘った女の子を連れて、ゆ……
 ゆ、遊郭、に行っちゃうんだから、あの破廉恥妖怪。
 だからそれまでに何とか捜し出すのよ」

年頃な周は「遊郭」という言葉を言い難そうに言った。
――こんな普通の少女が九人の式神を連れているなど誰が思うか。

「よし、とりあえずこの通りを探すわよ。
 その次は東の大通りで……」
「周!」

不意にここにはいないはずの声で呼ばれて
周は目を真ん丸にして顔を上げた。
そこに居たのは――

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