【其ノ壱】周、捜索開始 〇一

魑魅魍魎が蠢く京。その京に住み、陰陽寮所属の陰陽師、
東雲周(しののめ あまね)。
寮頭の篠岡継雅(ささおかの つぐまさ)から、
その異母妹で自分の親友、葛城野宮(かつらぎのみや)の
姫である、清姫(きよひめ)を守る任を任されます。
任に就いた初日。自らの力不足により、清姫を危険な目に
遭わせてしまった周。
二度とこんな目に遭わせないために、
力をつけようと努力していきます。

やがて出会う、九人の式神とともに――

けれどもその式神たちが一筋縄では行かぬ者たちばかりで……、
周の頭を悩ませるのでした。


   ◇  ◆  ◇


小鳥がさえずりだす、静かな早朝。
そんな澄んだ空気を、周のあられもない悲鳴が打ち砕いた。

「周ッ!?」

己の主の悲鳴で飛び起きた“八人”の式神たちが一斉に
姿を現し、周を取り囲み、辺りに視線を巡らせる。

「周、どうした! 無事か!」
「み、みんな……っ」

真っ先に主に駆け寄ったのは周を妹のように可愛がる
九尾の狐の妖怪、傘音(かさね)。
真っ青な顔をして震える周を、皆が心配そうな顔をする中、
常に冷静過ぎる雨童子の修芳(しゅか)がぽつりと言った。

「……一人居ない」
「え?」

これまた一斉に皆が皆を見た。

青鬼の路灯(じあん)。
九尾狐の傘音。
鎌鼬の杏矢(きょうや)。
雨童子の修芳。
木霊の立葉(たちは)。
天狗の圭雪(けいゆき)。
白蛇の白里(しらり)。
海和尚の秋澄(あきすみ)。

これだけの式神を従える周は特別強い力を持つ
陰陽師だからこそ出来る技。
だが周の式神は九人居る。
それが今、何度数えても八人。

「……あっ! 佐巻(さまき)の野郎が居ねぇ!」

と声を上げたのは杏矢。
そう。この場に居ないのは、一反木綿の佐巻。
大体の状況を飲み込んだ八人の式神たちは、主を見た。

「さ、さ、佐巻が、私のお布団に、か、蛙を入れたのっ!」
「……蛙」
「なによ! 雨蛙なんて可愛いものじゃなくて
 ヒキガエルだったのよ!?」

普段、あまり人の事を気にしない佐巻は、何故か周を
からかうのが好きなようで。
そのせいで周は毎日のように寿命が縮む思いをしていた。

「また佐巻の悪戯か」
「……こりないよね、アイツも」
「さて、寝直すかぁ」

事が佐巻の悪戯と判明した途端溜息をついて
消えようとする式神たち。

「え、ちょっと! なによ、その反応!
 私心臓が出るくらい驚いたんだからねっ。
 今度こそ佐巻にお札貼り付けて反省を促してやるんだから!」

だが周が布団から出たときには時既に遅し。
式神たちは何処かへと消えて寝直してしまっていた。

「貴方たちっ、それでも私の式神なの――!?」

叫ぶ言葉もただ虚しく空気を震わせるだけなのでした。

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